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第2話 禁術-2

Penulis: 藤咲だいふ
last update Tanggal publikasi: 2026-10-21 12:48:57

「陛下、お話がございます」

カイルが寝室に入ってきたのは、それから間もなくのことだった。

私は暖炉のそばに置かれた椅子に座り、侍女が用意してくれた温かいお茶を飲んでいた。

ゼルハンは私から少し離れた場所で、カイルと向き合っている。

「何だ」

「……お身体のことです」

カイルは私をちらりと見た。

「できれば、お二人で」

その視線の意味は、すぐに分かった。

私には聞かせたくない話なのだろう。

「私は席を外します」

立ち上がろうとすると、ゼルハンが手で制した。

「必要ない」

「ですが、陛下」

「シェリアはここにいればいい」

カイルの表情が険しくなる。

「……承知いたしました」

彼は一度深く頭を下げた。

「先ほどの症状ですが、宮廷魔術師に確認させるべきです」

「後でいい」

「後では遅いかもしれません」

ゼルハンの眉がわずかに動いた。

「カイル」

「陛下。あの黒い紋様は、通常の魔術反応ではありません」

私は思わず顔を上げた。

黒い紋様。先ほど、彼の腕に浮かんでいたものだ。

「……呪術の可能性があります」

カイルの言葉に、部屋の空気が張り詰めた。

呪術。

その言葉は、エルシアでも恐れられていた。

人の命や精神を蝕む術。

私は思わず首元に手を当てた。そこには、もう銀の首輪はない。

けれど、かすかな熱が残っている気がした。

「……あの」

二人の視線が私に向いた。

私は緊張しながら口を開いた。

「もしかして……私がつけていた首輪と、関係があるのでしょうか」

カイルの目が鋭くなる。

「それを、あなたが聞きますか」

「……え?」

「あなたは、あの首輪が何なのか、本当に知らなかったのですか」

その声には、明らかな疑いが込められていた。

私は慌てて首を振った。

「父からは、護身のためのものだと……」

「護身?」

カイルが低く笑った。

「エルシアの公女は、ずいぶんと奇妙な護身具を使うのですね」

「……申し訳ございません」

何を謝ればいいのかも分からなかった。

けれど、謝ることしかできなかった。

「カイル」

ゼルハンの声が響いた。

「それ以上、シェリアを責めるな」

「ですが――」

「俺の命令が聞こえなかったか」

カイルは口を閉ざした。

その表情には、納得できないという感情がはっきりと浮かんでいる。

私は膝の上で手を握りしめた。

この国の人たちは、私を歓迎していない。

当然だった。

エルシアとヴァルガは、長い間争ってきた。和平のための結婚とはいえ、敵国から来た公女を簡単に受け入れられるはずがない。

ましてや、花嫁に呪術が仕掛けられていた可能性まであるなんて。

それなのに、なぜゼルハンだけは私を庇ってくれるのだろうか。

周囲の反応を見るに、私を庇うことは彼にとって不利益でしかないはずなのに。

※※※

夕食が運ばれてきた頃には、外はすっかり暗くなっていた。

食卓には、見たこともない料理が並んでいた。

香ばしく焼かれた肉。色鮮やかな野菜。温かいスープ。柔らかなパン。

私は思わず目を見張った。

「……こんなに、たくさん」

「足りないか」

ゼルハンが尋ねる。

「いいえ。十分すぎるほどです」

彼は私の向かいに腰を下ろした。

「好きなものを食べろ」

「……ありがとうございます」

私は慎重にスプーンを手に取った。

温かいスープを一口飲む。優しい味が、身体の奥まで染み渡った。

思わず、ほっと息を吐く。

「……美味しい」

小さく呟くと、ゼルハンが顔を上げた。

「そうか」

「はい。とても……」

言いかけて、私は口を閉じた。

エルシアの王宮では、食事中に余計なことを話すと叱られた。特に、父や兄たちが同席しているときは。

私はいつも、目立たないように食事をしていた。

「どうした」

ゼルハンが尋ねる。

「……いえ、何でもありません」

私は慌ててスプーンを置いた。

「もう十分です。ごちそうさまでした」

彼の眉が寄る。

「まだほとんど食べていないだろう」

「ですが……」

「口に合わなかったか」

「いいえ、とても美味しかったです」

「ならば、食べろ」

私は戸惑った。

彼はしばらく私を見つめていた。

そして、静かに言った。

「シェリア」

「……はい」

「ここでは、我慢することを当然と思うな」

胸の奥が、きゅっと締めつけられた。

「腹が減っているなら食べろ。疲れたなら休め。嫌なことがあれば、嫌だと言え」

私は彼を見つめた。

そんなことを言われたのは、初めてだった。

「……ですが、私は」

「何だ」

「……そんなふうにしても、よろしいのでしょうか」

彼は一瞬、言葉を失ったようだった。

そして、ゆっくりと答えた。

「当たり前だ」

その声は、どこまでも真剣だった。

私は俯いた。胸の奥が、じんわりと温かくなる。

「……ありがとうございます」

声が震えた。

彼は何も言わなかった。

ただ、私が再びスプーンを手に取るまで、静かに待っていてくれた。

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